春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。


 
 



     



証しの一族としてごく限られた官僚にのみ代々その存在が把握されている彼ら。
そんな一族の中でも主幹にあたり、
名のある支家のうちでも特に選り抜き、何と言っても情報戦が得手の木曽だというに。
それが知らぬ間に出し抜かれ、
女学園周縁というこうまで至近へ伏兵を置かれていたのがまずは信じられない。
言っちゃあ悪いが、たかだか風俗法の改正に右往左往するレベルの興行企業系武力団体。
代議士への脅しもいかにも粗暴なだけのそれで、
そんな小物相手にそれでも辣腕を揃えて対処にあたったのは、
他への見せしめという格好で事件を広く印象付けるべく、
盤石な態勢で畳むつもりがこちらにあったから。
執行者の中に次代である久蔵を立てるなど、それは手堅く進めて来たのに、
だというに、この運びはどうだろう。
意外なほど厚みのある襲撃犯を繰り出し、この女学園の包囲網も堂にいっていて、
イブキがひなげしさんから得られた情報によれば、
各自が携帯している武装もしっかりしたもので固めているとか。
だが、逆に言えば そこまでの用意が必要か?というようなレベルの話だけに、
そこが何とも噛み合わぬ。
十数人もがライフルや口径の大きい銃を装備しているなんて、
国家への叛逆の狼煙としてのテロでも仕掛けたいのかと思えるほどで。
とはいえ、

「不審な顔触れを片っ端から収容並びに移送せよ。」

事態が動き出している今は現状への対処が先で、
図らずもお嬢様たちの繰り出した突拍子もない技にて炙り出せた格好の賊らを
抵抗封じて収容するのが優先事項。
お嬢さん方の執った策は単なる炙り出しで、
当然のことながら息の根までは止めていないのだ。
自棄になられて周辺住民を巻き込む騒動にでも発展しては目も当てられぬ。
此方も人海戦術で、片端から複数人数で担ぎ上げては移送用のボックスカーに積み込み、
そのまま有無をも言わさず遠方へと運び去る。
この場の安寧を最優先というのが今回の任務で必定とされていることでもあり、
息をひそめていたところから無様にも転がり出てしまった輩を
ほぼほぼ無抵抗のまま引き上げさせ、
それで脅威も摘み取れた格好になろうと安堵しつつ、
そんな光景をやや高台のこちらから見守っていたイブキ、ふと、妙な空気に気がついた。

「? どうされた?」

途轍もない仕儀と行動で貢献したお嬢様たちが、
先程まで余裕で構えていたのが嘘のように緊張をはらんでいて。
レーザーポインター内蔵の警棒を振るった紅ばらさんが堅いお顔なのはさして変わらぬが、
飄々としていた平八までもがその顔から愛嬌をすっかり拭っておいで。
此方からの声掛けに、やや戸惑いを滲ませたお顔を向けて来て、

「さっき、何だか矛盾している相手だと、
 でもそういうのもありかなという言い方をしましたが。」

ああやはり、論理破綻しているという自覚はあったのかと、
イブキが彼女とのやり取りを思い出す。
単なる一女子高生を対象に、
攫いたいやら脅したいやらどっちかは不明ながら
すぐ間際まで集まっていた顔ぶれの武装があまりに行き届いていたのを指摘しつつも。
只の連れ去りにそうまでの装備をし、しかも組織立ってるなんて矛盾もいいとこ、
なので、偶然同じような重装備した個々人が集まっちゃったんでしょうねなんて、
そういうこともアリでしょうかねなんて、
いきなり心許ない言い方をしていたひなげしさんであり。

「素人がそれ以上の口出しは僭越かと思ったので誤魔化したのですけれど。」

それ以上に 十代らしからぬ用心深さからだろう、
こういう事態においては、総てを一気に話すのは危険、
切り札は取っておくものというのが基本姿勢であるらしいお嬢さんが、
またしてもちょっとだけ胸の裡へ伏せていたカードを明けようとしており。
イブキに向かって真摯なお顔を向けての云わく、

「周辺を取り囲む輩の目当て、
 もしかして神木代議士の娘さんではなくて、もっと手ごわい人、
 そう、そちらの久蔵くんじゃあないのかと思ったんだな。」

「…っ」

そうと口にした平八のすぐ傍らに立って、
油断なく街路を見下ろしつつ彼女を庇う久蔵が やはりうんと頷いて、

「倒れた顔触れの陰、油断するな。」

何がどうという仔細を、それは簡潔に言ってのける。
先程のフェイントで浮足立った連中よりも手ごわいのが潜んでいると言いたげで、

『本物だ。油断するなと俺の中で“俺”が言ってる。』
『…っ?!』

誰にも言えない、言ったって信じてはもらえまいこと。
ふとした折、不意にするすると頭の中へ湧き上がってきた物騒な記憶と、
身のこなしにまで及ぶ様々な“身に覚えあり”というあれやこれや。
生まれる前のこの身が辿った、それはそれは凄まじい生きざまを鮮明に思い出し、
しかも同じ時代と場所を共に生きた存在らに、
記憶復活を成した上で再び相まみえようだなんて…。
そんな特殊な背景を持つ彼女らであり、
その“特殊”な部分は、日頃は単なる記憶でしかないが、
それでも意識の下で密やかに息づいているものか、
もしかして普段のお嬢さんたちのずば抜けた反射や格闘時の勘へも
少なからぬ助力をくれているのやもしれぬ。
そんな秘めやかな意識・存在、侍という特別な感応が
よほどのこと刺激された“何か”であったのか。
普段は至って冷静寡黙な久蔵なのへ、
突き動かすだけじゃあなく、口を利かせるほどの働きかけをしてきたらしく。

 「…、……。」

結構な台数のボックスカーが
ひっきりなしにやって来ては出てを繰り返していた異様な風景。
だが、ここからのような 上からの俯瞰という見方をせぬ限り、
そんな事態だというのは気づけぬかもしれず。
通りかかる人というのがないのは閑静な住宅地だからということと、
どこかでさりげなく彼らの陣営の人が立ち、通行への規制を掛けているのかも。
今のフェイント技で蹴りだす恰好になった顔熟れは、
身の隠しようも堂に入ってた上に、武装もやや規格外に分不相応だったものの、
お嬢さん方が繰り出した手管でボロが出た辺り、
代議士への脅迫を構えた連中…の息がかかったクチだとして。

 “恐らく、そんな彼らに入れ知恵をした奴らがいる?”

こたびの任務を知る者が、
証しの一族の護衛のノウハウを知った上で
その盲点へすべり込むやりようを伝授したということか?と、
これはイブキくんもまたその思いが至っているところ。
分を超えた武装をしていながら、
それでもあっさり馬脚を現したほどの雑魚どもはこの際どうでもいい。
ここまででも随分と、女子高生とは思えぬ采配と蓄積や判断をお見せな三華様がた。
先進の技術あってのこととはいえ、
銃による武装だの、巧みな潜伏などを炙りだし、
余裕綽々といった風情で立ち回っていたものが、
見るからに緊張感をみなぎらせ、
油断するなと身構えるほどの何かを嗅ぎ取っておられるとなると、

 “今のうち、校舎へ戻した方がいいのかも。”

他でもない自分たちの感応で“油断ならない”と感じ取っているのなら、
尚更にその身をこそ守っていただかねばならぬ。
自分と同じ、男子高生の制服姿なので尚更に
自分が仕える若き主人と瓜二つの、凛とした面差しを尚のこと尖らせて警戒している
三木さんのところの久蔵さんへと、手を伸べてその旨を伝えんとしかかった正にその折、

 「…っ!」

ひゅんっと風を切って何かが飛んでくる気配が届く。
ハッとし、脅かさないよう遠慮気味に伸ばしかけていた手を、
遠慮もなくのぐいと伸ばして二人の二の腕を鷲づかむと力づくで引き寄せたが、
そんな彼らの足元でパンと弾けた何かがあって、
そのまま周囲に焦げ臭い匂いと埃のような靄がぶわっと広がる。

 「…お二方っ、こちらへっ。」

方向は見失ってはない。校舎側へと誘導しなければと、引き寄せた腕のうち、
手前にいたひなげしさんはそのまま身を寄せてくれたが、

 「……っ!」

何かが頭上から降って来たのは、イブキも感じた。
煙幕を兼ねた炸裂弾を放り込んだ者が自身も飛び込んで来たものか。
それがほんの鼻先であり、しかもややこちら寄り、
ひなげしさんに手を伸べようとしたらしいのが、後から思えばあざとい。
人の気配に敏感ならしい紅ばらさんもそれへと気づいて、
咄嗟に自分の身をすべり込ませてのはだからせ、
お友達への魔手を弾こうとしたらしく、だが、実はそれこそが相手の思うところ。

 「…っ、貴様っ!」

サッと横へと払われた、何か得物による一閃を、
こちらも先程手にすべり出させてあった警棒で払ったお嬢さん。
だが、その相手がひょいと身を躱し、少し下がったのをつい追ってしまったのがいけない。

 「ダメです、戻ってっ!」

慌てて手を伸べたイブキだったが、そんな彼の前へ別な気配が立って。

 「く…っ。」

ひなげしさんを慌てて自身の身の後背へと引き込み、
腰を落として身構えると袖口から引き抜いた小柄を逆手に握り、容赦なく相手へ振り抜く。
守る存在がある身へとなると、これはもうおふざけでは済まない攻撃だからで。
目にも止まらぬ冴えた手際で振り出された切っ先は、
それを受けたことで、それ以上の深い攻勢を受けないようにと相手の動きを一瞬凍らせ。
素早い動作での幻惑がひたりと止まったその一瞬が、それによって視野に現れた光景が、
イブキに途轍もない現状を知らしめる。

 「な…。」

目の前に立っていたのは、
よくあるワークパンツにブルゾンとTシャツを合わせた、
20代そこそこという年頃の男性で。
仮面の代わりか鼻から下を覆っていたマスクが
小柄の切っ先で大きく裂けてしまっており、
そこから覗いたのは、イブキもよく知る顔だった。
そちらもその刹那、凍ったように固まっていたものの、
彼と自分では立場や状況が違う。
恐らく、この段にいたっては正体がばれても構わぬと思ったか、
ふふんと笑ってそのまま大きく跳躍し、
彼の後ろに当たるフェンスの向こうへと逃げを打つ。

 「ま、待てっ!」

そうと怒鳴ったが、
待ちはしなかろし手を伸べても捕まるまいと頭のどこかで答えは出ており、
大きく息を吸い込むと、インカムへ向かって堅い声を放つ。

 「高階様、諏訪です。」
 【なに?】

 「諏訪の手の者が来ております。
  しかも、久蔵さんが、三木家の令嬢が、若の扮装のままで彼らを追ってしまった。」
 【…っ! 至急追っ手を出す。お前はもう一人の令嬢を、】
 「はい。」







 to be continued. (17.04.13.〜)





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 *えらいこっちゃでございますが、何がどう大変なのかは
  ややこしい話を持ち出さにゃあならないので、今から面倒だなと…。(こら)

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